<コラム「巨象を探る」>中国バブル崩壊懸念も吹き飛ばす日本企業の熱狂的「対中シフト」

八牧浩行    2010年3月9日(火) 7時0分

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2010年3月、日本の消費市場が人口減少やデフレで縮小する中、日本企業の中国へのシフトが進んでいる。バブル崩壊の危機も叫ばれる中で、需要大国としての中国に照準を合わせているが、狙い通り成功するだろうか。写真は上海で売られるアサヒスーパードライ。

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2010年3月、日本の消費市場が人口減少やデフレで縮小する中、日本企業の中国へのシフトが進んでいる。昨年9月のリーマンショック以来円換算で57兆円も財政出動し、バブルの様相が色濃い中国。崩壊の危機も叫ばれる中で、需要大国としての中国に照準を合わせているが、狙い通り成功するだろうか。

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自動車、電機など主な産業分野では、日本企業の中国市場への依存度は年々急拡大。自動車では業界全体で日本での販売台数に迫り、今年中に凌駕する見込みだ。すでに、日産自動車は中国での販売台数が09年に75万台と日本の59万台を大きく上回った。中国の自動車販売台数は同年に米国を抜いて世界1位となり、今後も急拡大する見通し。中国での人口当たりの自動車保有台数は欧米の10分の1以下で、潜在需要は測り知れない。「中国を制する企業が世界を制する」とばかりにすべての自動車メーカーが戦略を練っている。

鉄鋼、化学などの重厚長大型素材産業も中国シフトに懸命だ。自動車は素材の固まりであり、その爆発的な生産増大に伴って、鉄鋼はもちろん、プラスティック、ゴムなどの需要が拡大する。鉄鋼各社は、合弁生産などにより、伸びが見込める自動車用鋼板の中国への供給に力を入れている。石油化学産業でも、三菱化学や三井化学は現地企業と合弁工場を相次いで新設する計画だ。

内需型産業の典型といわれた産業も中国へシフトしつつある。早くから進出したサントリーは、沿海部から開発目覚しい内陸部への清涼飲料販売を加速。アサヒビールやキリンビールも独自の戦略を練っている。中国とはあまりなじみがなかった化粧品も、いまや有望市場。「化粧人口」が09年に5800万人と日本市場に並び、今年は1億人を突破する勢いで、さらに2020年には中国の化粧人口が4億人に達すると予測されている。

肌の質や色が近い日本女性向けにきめ細かくアレンジされた日本のメーカーの製品を好む傾向にあるといわれ、対中進出競争は過熱している。資生堂は「アジア女性の肌のための日本ブランド」として新たに「DQ」シリーズを3月に発売、販路も百貨店、専門店に加えて大手薬局チェーンとも提携して全国展開中だ。カネボウ化粧品、ロート製薬などもスキンケア商品を中心に「美白」や「保湿」をアピールして攻勢をかける。

日本国内での売り上げ減少に悩む流通業界は、中国での反転攻勢に懸命だ。収益構造の悪化から構造不況に陥り、閉店が続く百貨店では、伊勢丹が天津市の中心地に二号店を年内に開店する。同社はすでに中国に四店舗を保有しているが、富裕層や中間層向けの食品や衣料品を中心に高収益が望めるという。イトーヨーカ堂をはじめとするスーパーやコンビニチェーンは中国の広い範囲に店舗を積極展開、出遅れていたイオンも巻き返しに懸命だ。

 上海万博後の行方注視が必要

こうした中、「過剰な投機資金が流入する中国の不動産市場はバブルであり、かつての日本と同様、急速にはじける懸念がある」(国際市場筋)との見方も根強い。中国は巨額財政出動の結果、09年に主要国で断トツのGDP8.7%成長を達成、日本の各企業は中国バブルの恩恵を享受した。10年も9.5%の高成長が見込まれている。中国政府も経済の過熱を警戒、2回にわたり預金準備率を引き上げるなど対応は素早い。5月から半年続く上海万博後をにらみ、中国経済の行方を注視する必要があろう。(筆者・八牧浩行)<巨象を探る・その3>

<「巨象を探る」はジャーナリスト・八牧浩行(株式会社Record China社長)によるコラム記事。=Record China>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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