【週末美術館】飲食男女 〜私小説のような水墨画〜

Record China    2008年9月27日(土) 15時34分

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まるで日記や私小説のように日常生活に潜む抑圧や焦燥感を描く現代水墨画家の李津。伝統がタブーとしてきた手法とモチーフに挑む彼の作品は、まるで幼子のようなユーモラスさをたぎらせながらも、どこか寓意的で、そこはかとないエロティシズムが漂う。

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中国画の絵筆を握りしめ、ざらついた画紙に人間と動物の生態をありありと描き出した「チベット組画(西蔵組画)」。85年に発表したこの作品を機に、現代水墨画家の李津(リー・ジン)は、日常生活を綴る日記のような表現手法―それは、まるで独白のような―を手に入れた。李の作品は、これまでの中国画では取り上げられることのなかった「人間らしさ」―食べ、飲み、歌い、踊り、喜び、怒り、悲しみ……といったものを画面いっぱいにほとばしらせている。そのモチーフも技法も、伝統がタブーとしてきたものだ。

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まるで子どもが描いたかのように素朴で屈託がなく、稚拙にすら見える画風は、一種「ヘタウマ」と言えるかもしれない。まさに今の気分に合う言い方では「ゆるい」という表現がぴったりだ。しかし、幼子のようなユーモラスさをたぎらせながらも、どこか寓意的で、そこはかとないエロティシズムが漂う。それは、皮肉とユーモアに満ちた日本最古の風刺画「鳥獣戯画」を想起させもする。

李のテーマは90年代以降、食、色、性にまつわる潜在意識に絞られている。とくに都市部に暮らす夫婦の怠惰さや欲深さ、愚かさ、そして彼らによる性的恣意を富に含んだ交わりを描いている。脂肪にくるまれた肉体の俗悪さと恥知らずの醜さ。そのほとんどは自身と妻をモデルにしていると思われ、私小説に似た形式で、都市生活者の日常に潜む抑圧や焦燥感を描く。作中の人物は時に洗練され、時に退廃的、時にノスタルジックで時に品性のかけらもない。厳粛さと崇高さと無縁の人物たちはその職業や身分を明らかにせず、美しくもなく醜くもなく、表情があるようでないようで、アノニムな存在として描かれている。作者は彼らを賛美するでもなく、軽侮するでもなく、ただ無邪気な子どものように絵筆を執り続けているのである。(文/山上仁奈)

●李津(リー・ジン)

1958年生まれ、天津市出身の現代水墨画家。1983年に天津美術学院中国画学部を卒業、同学部で副教授を務める。日常生活を綴る日記のような表現手法で「人間らしさ」を描く作風は高く評価されており、国内外にそのファンは多い。90年代から海外の作品展にも積極的に参加している。

※週末美術館では、中華圏のアーティストを中心に日本や世界各地の写真作品、美術作品、書道作品など様々なジャンルの作品をご紹介していきます。

写真提供:匯泰国際文化発展有限公司(中国・天津)

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